Interview

立本夏山スペシャルインタビュー

 

 

Q:夏山さんがひとり芝居を始めたきっかけを教えてください。

 

 

夏山:僕が舞台の世界に触れたり、観たり、関わっていく中で一番感動した舞台というものがありました。それは緒形拳さんのBunkamuraシアターコクーンで行われたひとり芝居「白野シラノ」というシラノドベルジュラックというフランスの話を日本版に改良した作品だったんですね。シアターコクーンをひとり芝居用に小さめに組んであって工夫されていましたね。そして緒形拳さんの演技も、無駄のないシンプルなものでした。声も動きも最小限で。でもそれを観たときに「これでいいんだ」と思った自分がいたんです。何か派手な演出などはひとつもなかったのですが、それでも感動した自分がいたんです。緒形拳さんの演技はとても素敵でした。

 

 

 

Q:夏山さんは文学座、俳優座の養成所にいた経験があるそうですね。俳優座では特に「ひとり芝居をしすぎる」というダメ出しが多かったそうですが、それは今の活動に関連しますか?

 

夏山:俳優座の養成所のときに1年の時、3年のときに劇団に残るかという審査があるのですが3年のときに言われましたね。日本でスタンダードと呼ばれる芝居をするときにはスタニスラフスキーシステムがベースになっていて交流するということが大事なんです。なのであまり自分がこうしたい、という事を強く持ちすぎるとうまく交流できないんですね。そこでひとり芝居するな、と演出家から言われるわけです。

 

Q:今は夏山さんのひとり芝居は面白いと言われるようになってきていますが、正直その時どう思われましたか?

 

夏山:今ではスタンダードなお芝居のオファーもあって協調性を尊重するようにもできるようになりました。多分その時、そういうスタイル(新劇や老舗の劇団)の劇団にいた頃はひとり芝居をしすぎていたと思います。少し語弊がある話になってしまうかと思うのですが、日本ではでしゃばる人間が好きじゃない人が多い気がしています。自己主張よりも調和を保つ中で浮き立ってくる美しさが美徳とされる風潮があるとも感じています。その頃の私は未熟でまだ自己主張が強い部分があり、「自分はこうしたい」というエゴの部分が強かったのだと思うので反省しています。

 

今思い返して思うことは、僕が一番大切にしていることは「人間とはなにか」ということだと思います。

ひとりの人間(自分自身)を考えたときに、自分がどうしたいかということが無いと掘り下げていくことができないのも事実で、協調性を重視して自分を抑えたままだとよく見えてこないものがあります。ひとりだからわかること、ひとり芝居だから伝わることは確実にあると感じています。緒形拳さんのひとり芝居、演技のことでいくと、そのときの演技はもう熟練の技術があって、抑えられた演技でしたがその内側にはしっかりとしたものがありました。それは自分自身や人間について考えぬいて生きてきた積み重ねが作ったものだと感じました。若い時の拳さんの演技はヤクザ者や、女を押し倒す役やかなり灰汁の強い演技もあったわけで、その一方で趣味で絵手紙や水墨画などもやっていて、そういう幅ひろい積み重ねが裏にあって60代、70代のときの演技に想像力が掻き立てられる旨味のようなものが出てくるのかなと思いました。ただ控えめなままだと豊かさを感じられない気もしていて、難しいですね、両方必要ですからね。もちろん色々な人がいて正解はないとも考えています。

 

最近は人に教える機会も増えてきて、教えることの難しさも身にしみてわかってきました。研究所時代に先生から言われた言葉が今になって響いてくることはよくあります。研究所では素晴らしい先生方や仲間に恵まれて感謝しています。

 

Q:今の世界では戦争している地域があります。今の日本はいじめや虐待、引きこもり、貧困、高齢化、様々な問題が山積みとなっています。特に精神的な面から来る課題が多いように思いますが、お客様に舞台や演劇、ひとり芝居を通して何かサジェストできること、可能性、希望のようなものは少しでもあると思いますか?

 

夏山:大きく分けて2つあると考えているのですが、1つ目はその事実をちゃんと知ってもらうこと。新聞、報道と同じで事実を伝えるという役割です。演劇では大手メディアでは取り上げられないような取り上げられないようなことも扱える強みがあります。それを通して考え直すきっかけを与えられるのではないかと考えています。もう1つはもう少し内面の問題で、どちらかというとこちらは今やっている僕の表現に近いです。見に来ていただいた皆さんに、自分自身(人間)を考える時間を作ることです。そしてその人間の指針を何かしらの形で示すっていうことでしょうか。日々、色々な問題に出会って向き合って疲れてしまった心に希望や元気を与えるような指針というのでしょうか・・・それにそれぞれの心が気づく時間ができればいいと思います。バラバラになってしまった心がつなぎ合わされて元気になれたらいいなと思います。

 

Q:これからの立本夏山の考える未来のヴィジョンについて教えてください

 

夏山:心の在り方が見えずらくなっていると思います。それは例えばこういう心でいれば「正しい」「幸せだ」というようなことは多様化していて、どうしたらいいのかわからない。ただ、その多様化する価値観を受け入れる心をみんなの中に育んでいく必要があると思いますね。人ですから好き嫌いもあるのですが、認めた上で共存するということだと考えています。そしてその中で自分自身の心はどうあればいいのか、求めつづける、その中で自分の心の在り方が見えてくるのだと思います。私の表現活動がその助けになれば嬉しいです。

 

 

本日はありがとうございました。